出会いのモード

Writer:うみ忍





雲がフワフワ。

風がそよそよ。

空気がポカポカ。

すずめがチュンチュン。


「あ〜あ、こう天気がいいと、学校行ってんのがむなしくなるわ」

なんで、こんなに天気がいいの?
この学校に行かないといけない運命への志保ちゃんへの当てつけ?天気の神様がいたら、そいつはきっと陰険なヤツね。

雨とかふらせたらただじゃ置かないわよ。





毎日踏みしめてる学校に向かう道。その上をあたしはひたすら歩いてる。

青黒いアスファルトに、グレーの電柱。
見飽きた上に、この先にはむなしい授業が待ってるんだから。

たま〜にサボるのもいいかななんて、よからぬ事も考えたくなるわよね。しかもこのポカポカ陽気。あっ!そうよ、神様きっとサボれと言ってるんだわ!



なんてあたしが、これから始まるむなしい運命を嘆いていると……。

「みゃあ。みゃあ」



「オロ?」

ネコ?……よね。
ネコの鳴き声が聞こえたわ。確かに。


情報に敏感なこの耳は、あっさり場所を突き止めた。
あたしは、鳴き声の方向にゆっくり近づいた。

あそこね。

道からはずれた、茂みの中に箱がある。

捨て猫。
すぐその言葉が頭に浮んだ。

そして、その中には予想通り、三毛の子猫が一匹。







「かっわいい〜!!」
「みゃあ」

すぐ、なでなで。
このコロコロのフワフワが気持ちいいわよね〜。
でも、ホント小さいわこの子。手の平の上乗っちゃうんじゃない?


「みゃあ」
「かわいい顔ぉ〜。でも、あんたみたいな可愛い子誰が捨てたのかしらね。きっと心のすさんだヤツに違いないわね。そんなのがいるから社会が乱れるのよ!」
「みゃあ」
「あらぁわかる?そうよねぇ」

ホントこうやって、この子なでてるとあたしの気分もフワフワ浮く雲みたい和んでくる。


ふと、なでなでしてる手の時計が目に入った。

ゲッ!やば!

「ごめんね〜。ネコちゃん、あたし用事があるから。まったねぇ〜。幸せになるのよ〜」

急げ志保ちゃん!時間が危ない!


…………


……













三時間目。


アレ?四時間目だっけ?


あぁ、四時間目ね。



四時間目の木林の退屈な授業。
なんで、物理なんてやらないといけないのかしら。こんなのなんの役にもたちゃしない。レジたたくのに物理はいらねぇってのよ。



空はあいかわらず、ポカポカ陽気。

あっ、トンビが飛んでる。
あたしも羽根があったらあんな風にふわふわ飛んでみたいわ。
こんな、訳わかんないたわごと聞かないで。



なんてね……………。

おなか減った…。





それにしてもかわいかったわね、あの子。
コロコロしてて。みゃあなんて可愛いったらありゃしない。

でも……どうしてるのかしら?
誰かいい人に拾われてればいいけど……。

そう言えばあそこ道が側よね。勝手に出歩いてるとか!
ふ、ふた締めたかしら?う〜ん思い出せない。

それに、夜になって風邪ひいちゃっうかも。だいぶ暖かくなってきたとはいえ。
だいたい食べ物はどうすんのよ!

マ、マズイ。マズイわね。

よし!






「長岡」

でも、そこに雑音。
あたしのすばらしい思いつきをジャマする、いやぁ〜な音。あ、声か。

「は、はい?」
「はいじゃないだろ。どこ見てる。黒板を見ろ黒板を!それとも何か?見なくても分かるという訳か?」

やば!ぼーっとして何も聞いてないわ!
志保ちゃんピ〜ンチ!

「ええとっ…………見てもわからないんで、見てませんでした……ってのはダメですか?」
「こ、このバカもんが!!」
「「「わっはっはっはっはっはっは………」」」

怒りまくってる木林。
睨んでる、睨んでる。
しょうがない。ここは神妙にするか…。


でも、笑いは取ったわ!


…………


……













昼休みの食堂。

急いできたけど、別にわたしはパン組って訳じゃないのよね。
急いできたのは………。





おお、群がってる。群がってる。

昼のパン組連中が。
購買のおばちゃんも大変だわ。あれじゃ。

あたしの目の前にはあさましい光景が展開中。
人間食べ物の事になると全く…。




さてと、あさましい第一人者は、と………。



いたいた。

「ヒロ〜!」
「…………」
「ヒロってば!」
「…………」

あっ、シカトしてんのあいつ。
こんなかわいい子の呼びかけに振り向かないなんて!
そんなに昼飯が恋しいの?


んじゃぁ……実力行使あるのみ!



「ヒロってばさっきから呼んでんでしょ」
「なんだよお前は!今、忙しいんだよ!見りゃわかるだろ!」
「おごってあげるからさ」
「ああ、後でな!」
「何よ!こっち向きなさいよ!」
「向こう行ってろ!あああああ!カツサンド切れてるじゃねぇか!!」

うるさい男。
たかが購買のパンごときで、わーわー喚く喚く。
そんなにカツサンドが恋しいんだったら、外で先に買っとけってえの。


しょうがないんで、あたしは強引にあいつの腕を引っ張った。

「お、おまえなぁ!お前が変に話しかけるから、買えなかったじゃねぇか!今日のダッシュは出遅れたから余計ヤバかったのによ」
「カツサンドくらいおごってあげるわよ」
「ねぇもんを、どうやって買ってくんだよ!」

なんか、怒ってムキなってるわね。
ガキじゃないんだから、食べ物くらいで。
全く………。

「まかせなさいよ。とにかく昼休み中に買えればいいんでしょ」
「あ、ああ……」

疑心暗鬼のヒロの顔。
ちょっとはあたしの事を信用しなさいよ。おごってやるってのに。全く、志保ちゃん情報にもケチつけてばっかだし、こいつは。

「んじゃ、ちょっと付き合って」
「なんでだよ」
「パン食べたいんでしょ?」
「わあったよ」

ついに、ヒロ陥落。
勝手にしろって顔。
まあ、あたしにかかればこんな物よね。



「あれ?どうしたの?浩之」

雅史が来た。
自分の獲物をしっかりゲットしてるわ。

あ、でも丁度いいわ。

「雅史も来て」
「え?どこ行くの?」
「知らねぇよ。とにかく、こいつの言う事聞かねぇとメシ食えねぇんだ」

雅史は意味がわからないって顔。ま、そんな言い方じゃぁね。
まあ、いいわ。
とにかく、GO!GO!


…………


……













あとちょっとで校門。

サクラの木の木陰にかかる。
もうすっかり緑になっちゃったけど、あん時のサクラ綺麗だったわ…。



「おい、どこ行ってんだよ」

何か無粋な声がする。

「何って、外よ」
「外って校舎の外じゃねぇのかよ!」
「えっ!?学校の外に出るの?」

ヒロ達に学校の外って言ったけど、勘違いしてるみたい。
早とちりなんだから。

「言ったじゃない。学校の外って。だいたい、外に出なきゃカツサンドなんて買えないでしょ」
「そうゆう意味だったのかよ!」
「バカねぇ。学校にないんだから外で買うしかないでしょ」
「じゃ、いい。行こうぜ雅史」
「あ、浩之……。それじゃ、悪いね。志保」

突然、ヒロが背を向けた。雅史もそれにつられてる。

な、なんでぇぇぇ〜!

「ちょ、ちょっと待ってよ」
「お前のサボリに付き合えるかって言ってんだよ」
「これには事情があるのよ」
「なんだよ。天気はいいし、次は嫌いな授業だから、教室にいるのがイヤになったとかそうゆうのか?」
「違うわよ!だいたい、サボリじゃないわよ。チャンと戻ってくるんだから」
「じゃ、なんだよ」
「実はさ………」

しょうがないんで、あたしはヒロ達に理由を話した。



「なんで、お前は理由の前に用件だけ言うんだよ」
「だって…心配だったんだもん」
「しょうがねぇヤツだなぁ。わかったよ行こうぜ」
「さっすがヒロ。やさしいわねぇ」
「リンゴジュース追加な」
「………血も涙もないわね」


…………


……













「あ、あそこあそこ」

あたしはすぐ、あの箱を見つけた。茂みの中の小箱。
あの子が入ってたダンボールよね。

「いるぅ〜………」

あたしはちょっと不安気に中を覗いてみる。



「みゃぁ」


かっわいい〜〜!
朝聞いたかわいい声!
子猫だし、ご飯も食べてないんじゃないかと思うとちょっと心配したけど、まだ、元気じゃん。

「きゃぁ〜。いたいた。元気してたぁ?」
「みゃぁ」
「いいこ、いいこ。よく我慢してまちしたね〜」
「みゃぁ」
「あっそうだ。ご飯買ってあげないと。おなかすいたでしょ」

ちょっと安心。
あたしは、この子の入ってたダンボール箱を抱えて、スッと立ち上がる。
そして行動開始!



「さ、行くわよ」
「どこ行くんだよ」

不満そうな声。突っ込むのはいつもコイツ。こんなかわいい子を前にしてイヤなっちゃうわね〜。

「この子のご飯買いに行くのよ」
「ああ?マジか?」
「マジって何よ。この子おなか空かしてのよ。かわいそうじゃない」

不満一杯な顔のヒロ。
血も涙もないヤツってのはこうゆう顔?

「うんそうだね。ミルクくらい飲まして上げようか」

さすが、話せる雅史。
やっぱペット飼ってる人は、心が広いわ。ヒロは心すさんでんじゃないの?一人暮らしが寂しくて。

「そうね。んじゃコンビニにゴー」
「違うよチャンとネコ用買わないと。」
「そうなの?」
「動物によって、同じミルクでも中身が違うから」
「ふ〜ん。さすが、ペット飼ってるだけの事はあるわ」
「ドラッグストアにあるよ。すぐ近くだから行こ」
「よし!ゴー」
「おいおい、昼飯食う暇あんのかよ」


うるさいヤツは相変わらず自分の事しか考えてないみたい。そんなのは、ほっとくかぎるわ。





あたし達は、この子のためにミルクと小皿をゲット。
気分よ〜く学校に到着。約一名、血も涙もない男を除いて。

「ふ〜っ。なんとか間に合ったみたいね」
「そうだね」
「こらぁぁぁぁ〜〜……」
「何よ」
「飯はどうしてくれるんだよ!」
「しょうがないでしょ、時間なかったんだから。あたしだって食べてないのよ」
「お前、おごるって言ったろうが!」
「あんた、この子の命より、自分のたった一食の方が大事なの?」
「そうゆう問題か?」
「そうゆう問題よ」

ご飯で釣られたもんだから、こだわるこだわる。
ご飯が少々抜けたくらいじゃ死にやしないでしょうに。だいたい、金がねぇとかいつも言ってるのは誰よ。一食もうけてラッキーと思いなさい。

「浩之、これ上げるよ」

あらら、雅史が昼休みに、購買で買ってきたパンの片方をヒロに差し出してる。

「えっ?いいのか?」
「うん、だってもう買えないだろ?」
「悪いな。やっぱお前はいいヤツだよ。誰かと違って」
「約束やぶるって訳じゃないわよ」
「昼休み中に買うって約束だろうが、もうこの時点で破ってんだよ」
「ぐぐぐぐぐぐぐ〜〜…」
「なんだよ」
「ふ、二人とも、やめなよ」


この顔はヒロの人にケチつける時の顔。昔からこの顔にはムカつくのよね。
こんなヤツに頼むんじゃなかった。志保ちゃん大失敗だわ。

「とにかく、早くしないと間に合わなくなっちゃうよ」
「そうだな」
「そうね」



あたし達はなんとか学校に滑りこむ。
まだ、昼休み終わってないみたいね。セーフ。これで一安心。


残った時間、外の手洗い場で猫用ミルクを作ると、ネコちゃんの前に差し出した。

「ほ〜ら。ご飯でちゅよ〜」
「みゃあ」

ぺろぺろ。

ネコちゃん、よっぽどおなか減ってたのか、必死に飲んでるって感じ。慌てて飲んで喉つまらさないかしら?

ぺろぺろ

「かわいい〜!」

ご飯食べてる猫って、やっぱかわいいわよね〜。

「おい」

かわいくない声。
あたしが温かい気分に浸ってるのに、それを邪魔する声がする。

ヒロはさっき雅史からもらったパンを、モシャモシャやりながら、何かいいたげな顔。食べてから言えってぇの。

「何よ」
「そいつ、どうすんだ?」
「どうするって、危なくない様に保護するに決まってんじゃないの。なんのためワザワザ昼抜けてきたのかわかんないでしょ」
「そうゆう意味じゃねぇよ。飼うのかネコ」
「えっ……?」
「やっぱりな。先の事考えてなかったんだろ」
「うっ………」

しまった。そこまで考えなかったわ。
ヒロって時たま頭良くなるのよね。特にあたしの前では。

「で、お前は飼う気あるの?」
「う〜ん。飼いたいのはやまやまなんだけどぉ…。ウチじゃたぶん無理……」
「雅史は?」
「ぼくはダメだよ。あの子達がいるもの。それにネコじゃもしもって事もあるし」
「ネズミが食べられるかもか…」
「ネズミじゃないってば…」
「またそのネタ?」
「うるせぇよ。………でも、って事はレミィもたぶんダメだなぁ」
「あんたは?一人暮らしで寂しいでしょ?」
「オレ昼いないんだぜ?こんな小さい子猫置いてけないだろ?」
「それもそうね」

三人で考え込む。
でも、ホント困ったわね。あたしん所で飼えればそれがベストなんだけど…。


「しょうがねぇな。わかったよ。ちょっと心当り当たってみるわ」
「………悪いわね。ヒロ。あたしも当たってみるから」

あれだけブーブー言ってたくせに、突然気を回したりすんのよねこいつは。
まあ、ここはヒロの好意に甘えましょ。サンキュ、ヒロ。

「いいって。メロンパン追加な」
「ええーーーっ!」

一瞬でも、感謝したあたしがバカだったわ。


…………


……













あたし達は、雅史にサッカー部の部室に一旦あの子を預けてもらった。
そして五時間目の授業が終わった後の廊下。

「あかりダメなの?」
「聞いてみないとわかんないけど…。わたしのお母さん料理の先生でしょ。教室で使う調理器具もあるから、衛生とかそうゆう事にはうるさくって。だからダメかも」
「う〜ん」

あっ。
あたしふと、もう一人いたわ。あかりのクラスに心当たりが。

そう、智子。

智子はもちろん、あかりのクラスの委員長の事。
前は超ムカツク奴だったけど、ヒロの仲介で誤解が解けたりとかで、いつのまにか友達になっちゃった。
今じゃ結構いっしょに遊びにいく中かな。



「智子は?」
「ダメだって」
「母子家庭じゃ無理か…う〜ん、困ったわねぇ」
「まあ、かたっぱし当たってけば一人くらい引っかかるだろ?」
「そうよね」

あたし達は、次のターゲットを探して廊下をうろうろ。

「ねぇ、その子あとで見せて」
「いいわよ。今雅史の部室にいるハズだし」
「かわいい?」
「ちょ〜かいわいい〜!」
「ねぇねぇ、どんな子?」
「三毛猫でね、手のひら乗るくらいなの」
「さわってみたいなぁ〜」

やっぱ動物っていいわよねぇ。
そんな時、突然、雅史のマヌケな声。

「あっ」
「なんだよ」
「来栖川先輩は?浩之知り合いだったろ?」
「先輩かぁ……。いやぁ…マズイかも」
「なんで?」
「もう一匹飼ってるし…」
「いいじゃん。もう、一匹くらい。お金持ちなんだから」
「いやぁ、ネコはまずいかも………」
「?」
「とにかくラストにしよう。先輩は」

なんか、困った様なヒロの顔。
妙ね。志保ちゃんのスキャンダルへの嗅覚が、敏感に反応してるわ。

まあ、ここはそれを置いといて。



結局その後、ヒロの部活(?)の後輩。松原葵ちゃんに会ったけど、あの子も世話してる暇がないって話だったし。マルチは……さすがに研究所じゃ無理だろうし。

他にもいくつかあたって見たけど、結局みんなダメ。こうして見ると意外にいないもんねぇ。





なんて事を考えてると、ちょっと見知った事ある女性生徒が一人前を横切った。ってあたしがチェックしてない、生徒なんてこの学校じゃ少ないけど。まあ、そうは言っても口聞いた事ないけどね。

でも、突然ヒロが走りだした。

「琴音ちゃん」
「あっ、藤田さん」

お互い気安く話しかける光景を、あたし達はちょっと不思議そうに眺めてた。

「浩之、知り合いになってたんだ」
「ま、あれからな」
「あの子…あの超能力の子だよね……」
「そうよね」

ふ〜ん。
あのガラス事件からそうゆう展開になってたんだ。でもいつのまに。志保ちゃん情報網にも引っかかってなかったわ。


ヒロは姫川さんへ近づいた。あたし達もいっしょに寄ってく。

「なんですか?」
「ちょっと、いいかな?」
「はい?」
「あのさ、琴音ちゃんって猫飼える?」
「猫ですか…」
「やぁさ、こいつが、子猫拾ってきちゃってさ、それで飼い主探してんだ」
「こいつ?」

って、あたしの事をこいつ呼ばわりして、話を進めてる。
親指!ジャマ!

「でも、家にはひろゆきさんがいるから……」
「「「はぁ?」」」
「い、犬の名前だ」

いっせいにあたし達は怪訝な顔になった。
なんですって?ひろゆきさん?って犬に普通つける?なんか怪しいわ…。志保ちゃんの感性が…………。

ってそんな事をしてる場合じゃないんだっけ。


「それじゃ、やっぱ無理?」
「はい…。ごめんなさい」
「あやまる事ないわよ。それじゃしょうがないわね」
「んじゃ。琴音ちゃん」
「あ、はい」

それで、あたし達は姫川さんと別れて、時間も時間なんで、教室に戻る事に。
結局、この休み時間には収穫ゼロ。


…………


……












カー、カー、カー。



ってカラスはないちゃいないけど、もう夕暮れ。
もう帰宅部の連中はいなくって、部活の声だけがやたら響いてる。

あたし達、あたしとあかりと智子は、夕暮れ時のグランドで、この子を抱いてヒロの答えを待ちぼうけ。ちなみに雅史は部活。





放課後もいろいろ人を回ってみたんだけど、結局ダメ。
無理か即断できない人ばっか。
本日の成果はなしでした。意外にいそうでいないもんね。

それで、最後の心当たりを当たるって、ちょっと離れた所でヒロがあたしの携帯で電話してる。

でも、それがダメだったら…………。今日この子どうしよう。



「いいこ、いいこ。困ったでちゅね」
「みゃぁ」
「今日はダメかもな。でも、また明日に探せばええやないの」
「そうだよね」
「でもさ、それはそうとして、今日この子どうしよ」
「志保んとこは、ダメなん?」
「う〜ん、猫用の道具ないけど………とりあえずそうしよっか」
「ほな、決まりな。取り合えずトイレの砂くらい買うとこうや」
「トイレの砂いるのかな?」
「猫は砂ないと、トイレできへんのやで」
「まあ、いいわ。なんでも買いましょ。あんた一泊くらいしかしないくせに高くつくわねぇ」
「みゃぁ」

とりあえず、ま、今日はこれでいいでしょ。



予定決めたあたし達に、あいつの声が聞こえてきた。
ヒロがこっちに寄ってくる。

「おい」
「浩之ちゃん!どうだった?」
「オーケー!」
「本当!?よかったね志保」
「そ、そうね」

なんだ。
OKだったの。ふ〜ん…。

一瞬、すこ〜しブルー入っちゃった。
ま、でもこれでいいのよ。

「待ち合わせ場所決めたから、早く行こうぜ。待たせると、綾香うるさいし」
「綾香?」

あれ?どっか聞いた事ある名前……。

「綾香さんって人なんだ、この子預けるの」
「あ、ああ」
「その人、信用できるんか?」
「ああ、その点は保証するぜ。待遇もいままでにないくらい贅沢できるしよ」
「あ!」

ピキ〜ン!
志保ちゃんデータベースからついに発見!

「あのさ、その綾香さんってもしかして、なんとかっていうののチャンピオンで、寺女に行ってる来栖川先輩の妹?」
「えっ、ホント浩之ちゃん」
「よ、よく知ってんな」
「志保ちゃん情報をなめるんじゃないわよ。ってあんたそんな人とも知り合いだったの」
「ま、まあな………。」

こいつ意外な所に知り合いが、たくさんいるわね。
でも………。こんな時になっても、その手の情報に敏感に反応してしまう、自分がちょっと悲しかったりして………。



「ええやないの、それやったらなおさら信用できるやん」
「そ、そうね」

そぉ、だけどぉ…さ!

「そんな事より。早よ行かな、向こうに悪いで」
「そうだよね」
「とうとう、お別れでちゅね」
「みゃぁ」

あたしはこの子のぽっぺに付ける。
コロコロのフワフワが気持ちいい…。

これで、トイレの砂も買う必要もなくなったわね……。ミルクも余っちゃったなぁ………。



「おい、行くぞ」
「わかったわよ」


あたし達はその、綾香さんとの待ち合わせ場所に向かった。


…………


……












駅前は人でいっぱい。
もろラッシュアワーだもんね。


綾香さんとは駅前で待ち合わせしてるとか言ってたっけ。
ゾロゾロ向かってくる人の群れをかき分けて進んでく。ちょっとうざい。

「みゃぁ、みゃぁ」
「はいはい、大丈夫ですよ」

うざい人の束に、ビックリしたのかさっきから盛んにこの子鳴いてる。
かわいそ。
………………………。

「おい、ちょっと急ぐぞ」
「えっ?」
「急ぐんだよ、少し遅れてるし」
「ああ、そうね」
「?」

ちょっと早足で歩いて、あたし達は駅が見える位置まできた。
こんな時、いつもならあたしが先頭歩いてんだけど、今日はこの子を抱えて最後尾。
みんなの後に付いてってる。

「どんな人なん?来栖川先輩の妹って」
「先輩によく似た感じ」
「やっぱ、姉妹なんだね」
「見た目はな。中身は全然逆だぞ」
「ふ〜ん。会うてのお楽しみって………。あれやない?あそこにおる人……」
「ほんと寺女の制服だ」
「ああ、あれあれ」

見つかったか…。
あ〜あ。とうとうここまで来ちゃった。
しょうがないか……………。


……………。


………。


……。





「やめた」




「行くぞ」
「やめたって言ってんの!」
「はぁ?何を」

ヒロの顔が、ちょっと怪訝な顔になってきた。何か不満そう。
でもね。もう決めたんだから!

「あたしが飼う」
「はぁ?」
「志保?」
「ダメとちゃうんか?」
「なんとかする…」
「お前、人散々振りまわしておいて、そのオチはねぇだろう」
「決めたのぉ!」
「全く、あのなぁ……」
「ごめんヒロ。この借りは必ず返すから。それに、綾香さんにも直接あやまるからぁ」

ヒロにもうねだる様に懇願するあたし。
参ったぜって感じのヒロの顔。

許してくれそうにないわ。そりゃそっか。アレだけ振りまわしたんだから。


もう、こうなった平謝りするしかないわ。

「申し訳ありませんでした!」

あたしは、もう力一杯頭を下げる。その時間、約十数秒。


「わかったよ」
「ホント?」
「いいよ」
「サンキュ、ヒ〜ロ」

思いっきりの笑顔。いつのまにかあたしの顔はそんな顔。

「ふふふ、でもそうなるんじゃないかと思ってたんだぁ」
「私も」
「何よ。読まれてたって訳ぇ?」

ちょっと悔しい。智子までか、あかりにまで読まれるなんて。
でも、いいや。

「あんたは今日から、あたしん家で住むんですよぉ」
「みゃぁ」

コロコロのフワフワ。やっぱかわいいわよね。

そんな時、突然聞きなれない声が割って入る。



「浩之遅いじゃないの」
「綾香………」

彼女が綾香さんか………。
ふ〜ん……………。綺麗じゃん。やっぱ先輩の姉妹だわ。
あたし達は突然の乱入者に、一瞬まぬけ顔。

あっ。

「ごめんなさい!来栖川さん!」

またもや、深々とお詫びの姿勢。恐縮した謝罪のポーズ。
あたしが今出せるのはこれくらい。

「え?何」
「あのぉ。子猫あげるって話なんだけど……」
「あれ?やっぱり」
「えっ?やっぱりって………」
「電話した時にね。浩之がもしかしたら、猫の拾い主がイヤだって言い出すかもって言ってたから」
「う……………」

ちょっと、怪訝な顔でヒロを見る。
何?そうゆう事?

「ま、まあな。あかり達じゃないけど。オレもそんな気がしてたんだよ」

ガーン!
肩を落すしかないわ。こりゃ。

「まさか読まれまくり?あたしってバカみたいじゃん」

ほんとバカだわ。あたしって。

あれ?
じゃあ、はじめからそう思ってたのに、ワザワザ綾香さんに連絡つけたのかしら。
全く、ヒロのヤツは!
昔から余計な事するヤツだったわよね。こいつは。
でも、これじゃ綾香さんにはホント申し訳ないわ。



「まあ、ええやんか。決心ついたんやから」
「そうそう」
「ま、それもそうね」

そうそう結果オーライってヤツよ。

「ねぇ。ちょっと抱かせてよ」
「あっ、いいわよ」
「あ〜。かわいい〜」
「みゃぁ」
「私もほしいなぁ。この子」
「ダメ。この子の家はもう決まったの」
「はははは、冗談よ。ねぇ、それより、猫用のグッズとか買ったの?」
「あ、まだやったな」
「飼うつもりなかったもんね」
「それじゃ、行きましょ。まだ時間あるんでしょ?」
「うん」
「ええで」
「おぉ」
「みゃぁ」
「んじゃ、ドラッグストアーへゴー!」

あたし先頭に立って、夕暮れ時の街中をズンズン進む。

みんな付いてきなさいってね。











今日はちょっと出会いのモード。


大きな出会いが二つ。


綾香さんは気さくな人で、すぐ気に入った。


あたし達はもうお友達。


綾香、志保の間がら。


そして、もう一つはもっと大きな出会い。


だけど小さな出会い。


あたしん家の小さな同居人。


そ、あたしの新しい妹……………。ヒロちゃん!











なんて、付けないわよ。あたしは!
















おわり。


あとがき


はじめまして。うみ忍と申します。
ちょっと、志保主役の志保視点の一人称ってヤツをやってみたくなって書きました。後、ちょっとぽわ〜んとした感じのSSにしようと。

でも、結構戸惑った……。
ボケの志保、ツッコミの浩之なのに、志保主役の一人称だから、志保だけで展開しないといけない。しかも、うかつで見落とし気味の志保の視点では状況描写がやりにくいってのも……。
それに、ダラダラしてしまった感がある。心理描写はテンポが今一歩だし。調整が難しかったです。



そうそう、世界観的にはALLエンド気味にしてしまいました。(GO!TO!Heart!!準拠?)



それでは。



 


グラノフカ設計局より

 素晴らしい作品を有り難うございます。
 相互リンク記念ということでいただきました。
 志保ちゃんらしさが満開なSSで、ぽわぽわーんとしてて、とっても良かったですヨ。

 

うみ忍様のホームページはこちらです…

-> http://www3.ocn.ne.jp/~sp11cov/

もしよろしければうみ忍様にご感想を…

 -> umi-nin@cronos.ocn.ne.jp